事実

人間は今のこの瞬間を生きているのに、実際にはこの瞬間の半分も生きてはいず、大半は幻覚の中を生きているのである。これはある特定の人に当てはまることではなく、またそういう見方もあるとかいう話でもなく、単なる事実だ。しかも、今というものもかなり曖昧な仕方でしか存在していないので、実際の現実はかなりぐにゃぐにゃな様相を呈している。

セックスという物理的な行為の中にセックスがあるのではないのと似て、生きるという物理的な行為の中に生きることはない。じゃあそれは何なのかというと、幻覚なのだが、あまりにも幻覚が強く染みついているために、それがまるでコンクリートの壁のようにどっしりと実在的にみえる。どちらにしても事実そのものとしての生きるという行為は認識できず、人は盲目の中で突っ走っているようなものだ。そこに幸福とか不幸とか言ったことがあるのか。あるのだとすれば、一体それはどんなものか。