2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

目が覚めると妙な気配がして、台所に行ってみるとオーブントースターで餅のようなものが焼かれている。 誰がこんなことをするのか、と思っていると、玄関のドアが開いてEが入ってくる。彼女はなぜか派手な格好をしていて、背後から午前の一杯の陽射しが見え…

「待ってください、なぜF2という呼称が出てきたんですか?」 僕たちは車に乗っている。窓の向こうは風の黄色い工場や倉庫のようで、何度も道を曲がって似たような景色を繰り返す。生田さんは少し髪が長く、短い口髭が生えていて、意地悪くさぐるような、それ…

あなたは死者である。夜の底からゾンビのように這い上がる死者。 彼の恋人は死者である。夜の闇の中で、薄明かりに彼女の顔がほの白くみえる。二人は並んで立ち、その場に止まっている。彼女の(まるで啓示のように)温かい手に胸の高さで触れる。 <林檎や…

✳雪の日について 実家はマンションで、三階から入って中に階段があって二階へ行けた。つまり実質は二階建ての家に住んでいるような感じだった。 実家の街はそんなに雪は降らなかったが、東京よりは頻繁に雪が降っていたように思う。それでも年に数回くらいで…

別に芸術の話なんかじゃなくてもいい。どんなことでもいい。客先に向かう電車の中でぺちゃくちゃ喋るようなムダ話。喫茶店で特にあてもなくあれこれと話すこと。そういうのがすごく好きだ。色々話して考えて、そしてすぐに全部忘れてしまうようなこと。それ…

実家の洗面所の白い照明を受けて、僕は鏡の前にいる。手のひらで掬った蛇口の水を、口いっぱいに含む。吐き出すとき、水は真っ赤な血に染まっている。ピンク色の細かい泡が浮いて、大きく旋回しながら流れていく。