空間の中身を見せる装置

「これは空間の中身を見せる装置です」と言って差し出された、万華鏡のような筒。いや、実際僕はこれを、万華鏡なのかなと思った。
「だけれども、万華鏡と違うところは、この装置が空間の中身、つまりその真の実在を見せる、ということです。空間は、人間にとって、立体的に見えるので、そうであることが気づきにくいのですが、実際には空間とは『膜』のようなものです。つまり、すべてが目の前にありながら、すべてが包み隠されているのです。それは例えば、人間は皮膚に包まれていて、その表面は人間として見えますが、皮膚の内側には光が届かないので、身体はすっぽりと闇に覆われている。その中身を可視化する、と言ったことに、ある側面では似ています。人間は空間の、表面しか見ることができない。これは原理的に言ってそうなのです。この装置を使っても、その原則が変わることはないのですが、しかしこの装置はその中身を、『膜』の内側を『比喩的』に見ることを助けます。覗いてみてください」

僕がその筒の中を覗くと、その中はいろいろな色がきらきらと光ってきれいだった。確かにそれは今までに見たことがないものだったのかもしれないが、新しいものをみた、という印象はほとんどなかった。むしろ、自分にとって馴染み深く、これまでも折りに触れて思い出し、また時に忘れていたような、色彩なのだと思った。