色や形

色があったり、形があったりするのは、物事の表面においてだけだ。ここに手があるとして、この物質としての手の色や形は、この皮膚の表面にしかない。その内側はどうなっているか? おそらく皮膚の表面にごく近い、ほんの薄い肌色の繊維の部分だけはうっすらと光を通すだろうが、それもただ一瞬のことで、残りのすべては完全な暗闇なのである。音はどうだろう。肉や骨や血が音を伝えるから、心臓の鼓動や血流の音が聞こえるかもしれない。熱はどうだろうか。熱はもっと温かいだろう。

眼でみることのできるものが、こうして常に表層にとどまっているというのは、考えてみれば不思議なことだ。分解すればいいというものでもない。リンゴを切っても切っても、見えてくるものはリンゴの表面であり、リンゴそのものには、どこまでも行きつくことがない。