地下のカラオケ

彼女と僕は地下室で歌っていた。僕は酔っている訳ではないが、陶然としていた。しかし僕は自分が妙な状態に入っていることを口に出して言いはしなかったので、上機嫌なだけで普通なように映っただろう。照明のせいで部屋が全部深い青に、またピンク色に見えた。彼女の歌を聞きながら僕は、同時にそれを聴いていなかった。何か普段得がたい言葉を聞いているように思ったのだ。朝方に森で鳥がさえずっているのを聞いているような。僕はソファに深く腰掛けていた。彼女は立って暗い中で歌っている。