多頭ピカチュウ

白い頭巾をかぶった子供がいて、月の光を浴びながらうつむいている。その顔は真っ暗で見えず、男か女かも分からない。そこはさらさらと水の流れる音がする河原で、その子はしゃがみ込んで音のしない線香花火をしている。

白い林檎。透明な林檎。
white apple, apple with no color

頭蓋骨解体

覗き見

尻尾を隠したそのヘビを見ていると、煩わしいような寂しいような気がした。その白いヘビは真っ青な空の中で急降下していた。


喉が渇いて、頭が痛くて、僕はこめかみを抑えていた。彼女がそばにいた。「ヘビが」と、僕は頭がどろどろする、寝起きの冷たい頭で言おうとした。


頭がざわざわしていて、ついさっきまで、子供に還って夕暮れの公園で他の子どもたちと遊んでいたような気持ちを感じている。


大工が釘を打つ。そういうイメージをどこから受け取ったのかもわからない。太宰を思い出してその話をする。洗濯物を干す。


機械みたいなもの。長い、ぐねぐねとうねったベルトコンベア状の装置。パカパカと被せるような動きをするマシンがある。


もう寝る時間を過ぎてしまっているのに、眠れないと言って、枕を持って下の階へ降りてくる少年。


「まるでヘッドホンをつけて一人で踊ってるみたいだな」 
(会場笑)


(整然と並んだ無機質な建築の群れ。魚の大群)


長いこと公園で喋っていると、気がついたら座ってる脚が痺れていた。


夜中の街で、巨大な電話で話し込んでいる男がいる。その電話は電気クラゲのように発光していた。それは、この世の外と交信するための装置なのだろうと思った。

幽霊の会話

おれさあ、昨日お前の心の中の家に行ってきたんだって。家なのに柱しかなかったじゃん。お前もおらんし。
何があったん、他に?
畳となんか古いっぽいテレビ。
勝手に入んなよ。
虫とかいたんじゃね?
おらんわ、虫なんか。
虫はいなかったけど鈴虫の音はめっちゃ聞こえてました。めっちゃうるさかったです。
お前そこで何しとったの?
暇だったんでずっとけん玉やってました。
きみまじでシュールじゃん、人の心の家の中でけん玉練習してるとか。
でも待ってください、こいつけん玉まじプロ級なんっすよ。
そうなんです。な。めっちゃはまってるんすよ。
昨日頭ん中がめちゃくちゃうるさいと思ってたらそれか。
わかんの?
わかんないですけど何か、頭痛かったです。チクチクする感じっていうか。
でもお前布団で堂々と寝とったがん。
ちょ、こいつ。聞いてください、先生。僕マジで昨日変な夢みたんすよ。
あ、はい先生。僕知ってます!お前それあれだろ、カラスが戦場みたいなとこで夕日に向かってめっちゃ飛んでるやつだろ。
こいつまじありえんわ。
俺見とったもん。こうやって銃構えてバンバン撃っとったがん。
もうほんとにつらいんすよ。カラス死んでめっちゃ落ちてくるし段々腐ってくるし。それにその夢全然終わんないんっすよ。長っ!て。
俺も飽きて途中で帰ったからね。
それでどうやって目が覚めたの、そしたら?
わかりません。気がついたら今日になってました。
お前それまだ夢の中の可能性あるんじゃね?
えっ?
いや、これ夢の中だったら訳わからなすぎるわ。
(笑)

人間の顔が砂になって、しゃりしゃりと雨の降るような音を立てながら落ちていくのを見るのは、子どもに還ったように懐かしい。

何かに夢中になっていたのか、ふと目を上げたときにそこへ停車していることに気づく駅。自分自身の意識と空間に変な仕方で焦点が当たるのに気づく夜。そうだ、この舞台はまだ続きなんだ、と思うような。その先の筋書きまで知っているはずなのだけど、何かに邪魔されるように思い出せない。舞台を鳴らす靴の音が広い空間にこだまする。

その家は精神の中に建てられている。その柱は地面ではなくて宙に支えられている。心の空間は現実の空が気体に満たされているように柔らかいものに包まれている。風が吹けばその家は揺れる。