雨が降っている。彼は喫茶店にいる。長い時間が経ったな、と思う。

そこは小さな店で、どっしりした椅子に、膝の高さのテーブルがある。席はショーウィンドウに面し、通りを見渡せるが、雨で道は煙り、雲のせいで辺りは薄暗く、雨粒が窓を全体に覆い隠して、そして彼自身が決して景色へ意識を凝らしたりはしないから、何も判然とは目に映らない。ただ、点滅する光の印象、すばやく動いていくモザイクのような人影や車の影、薄ぼんやりとした光の感覚が、ぼんやりと流れていく。

彼の近くには、そんな窓や、その上の時計、向かい合った壁のカレンダー、飾りの地図、観葉植物などがあったが、いずれも、見ているようで見てはいない。時間がただ経つという感覚があり、それは単に眠りが足りなくて、とても意識がぼんやりとする、それだけのことかもしれない。雨にぐしょ濡れになって歩いてきたみたいに、体の芯から疲れ切っているのを感じる。