朝目が覚めたとき、薄暗い部屋で、居間に怪物がみえる。

変な黒い塊で、とても危険なものだ、という印象を、その瞬間に僕は抱いている。

声を上げる。

でも、よく見るとそれはただの扇風機で、一度扇風機にみえてからは扇風機にしかみえない。

 

こういうことはよくある。

思うのは、結局それは扇風機だったのだから、扇風機なのだ、と言えるのか、ということ。

明らかに輪郭上も怪物とはみえないものを、何だかわからないので、

心がそこに怪物を投影している。

後から、それが怪物ではないと判断して、今度は、

扇風機を投影しているわけだが、

実際そこにあるのは、

怪物でも扇風機でもない何か、だ

ということができないかと思う。

 

というか、実際そうなんだろう。

ここにあるのは、怪物でも扇風機でもない。

 

そして、一方で、

これは怪物である

これは扇風機である

という判断を下しているのは、

僕の心であり、それは自分でコントロールできない深いところで、

なされている処理だ。

 

あるものを、

怪物にみせ、

また扇風機にみせている、

心の根本的な働きとは何か?

何がそうさせているのか?

 

これもまた問題だ。

 

つまり、

外界には「あれでもなく、これでもない何か」があり

内部には「あれをこれと見せ、これをあれと見せる何か」がある。

 

そしてその二つとも、意識には昇ってこない、

分かってしまうと危険なもの、と言える。

 

僕はこの二つが非時間的なものだと思う。