2016.5.25

 

天井だけ暗く青く光るゲームコーナーがガラス越しにみえる。アームは右から左に動いていく。マシンの中は明るいからそれは夜空のUFOのように浮き上がっている。お金は入っていない。勝手に動いているだけだ。ガラスの向こうに二人の男の子がいて覗いている。乗り出してもたれかかるようにしている彼らの顔は少し歪んでいる。ガラスそのものがカーブを描いているので歪んでいる。片方はアームの動きをみつめている。右の片方は積まれた景品をみている。二人とも首や肩から下はみえない。もたれている腕はみえる。髪も上へしたがって溶けていく。時々天井の照明が雷のように(実際に雷を模して)白くなり、長い線を描いたり点滅したりする。それでも辺りは暗い。二人の奥には暗くてみえにくい人かげがある。スロットが光っている。スロットの文字盤が光っているのが遠い埠頭にみえる灯台の明かりのように浮かんでいる。そんなふうに無数の光がある。レースゲームの画面の斜めに途切れて走りつづける。それは長い長い川の流れのようでもある。

 少年は右からささやかれる。音がうるさすぎるせいかよく聞こえない。耳を近づけてみる。口を近づけてくる。息がかかる。その息はくさい。細い腕が彼の向こう側の肩を今は抱きかかえている。

 銃声のようにふいに声がする。誰かが叫んで彼のことを呼んだみたいだ。本当に呼ばれたのかどうかわからない。音の輪郭がぼやけて消えていった。青い天井がまた明滅している。いろんな人がいるのに誰のこともみえない。きっとここは暗すぎる、と思う。誰かがレースゲームのブースの中にいて、とても強く何かを蹴っている。

「行こう」と少年は言う。何か大きくて重い石の輪のようなものがこれから激しい速度でまわる予兆を含みながら、今おずおずと動きはじめている、というふうに感じていた。彼を抱いていた手はもう外れていた。①②と書かれた赤いボタンと、同じ色の操作用の棒が、白いにごった光に照らされている。目を上げると、弟はガラスの向こう側でこっちに向かってふざけていた。