電話がかかってきたときから、嫌だった。電話がかかってくると大抵嫌な予感がした。しかし今回のことでは驚いた。なぜ◯◯がくるのか?

「上がってきてください」

 と僕は言ったが、正直別にきてほしくなかった。一人でいたい気分だった。

 それに、上がってきてもらうなどということは無理だ。僕は階段を降りて行った。玄関のドアのすりガラスの向こうに、〇〇のシルエットが立っていた。

「どうしたんですか、こんなとこまで」

 僕はそう言って笑った。

「いや、なんかさあ、変だと思ってさ」

 僕は〇〇の目の焦点が少し変だと思った。夕方で辺りが金色だった。

「何がですか?」

「いや、朝起きたときにさ」

 言いながら〇〇は何かを見つけたように足元を見た。僕もそこを見たが何もなかった。蟻も這っていない。ただのタイルだった。

「めざまし時計が鳴って」

「うん」

「すごいうるさかったわけ」

「はい」

「いつもこんなうるさいわけないのになーって」

「で、やっぱちょっと変なんじゃねーかと思ったら、テレビが映ってて」

「テレビだよ? うちって、別に朝自動でついたりしないからさ」

「いやこれ夢かな?と思ったんだけど、ジャンプしたりさ、してみたんだけど、あ、これ夢じゃねーやって」

「気づいたんだよね。で、テレビみたら大写しで」

「君が映ってたからさ。あれ、これダメじゃねって。これダメなやつじゃね?って思ったわけよ。死んでんじゃんって。うわーこれはないわーというかなんというか、にわかには?信じがたかったわけよ」

「で、確かめなきゃと思って、急いできたんだけど、なんか元気そうだね」

「うん、はい」

「なんともないわけ?」

「うん、はい。別に」

 僕は証明するようにその場で軽く跳ねた。

「じゃあなんなん、あれ」

「あれってなんです?」

「えっ、知らんの?」

「ああ、いや、知ってます」

「なんなの、どうしたの?」

「あの凍ってるやつですよね」

「凍ってるっていうか、うーん、なんだ、あれ? 青い感じの映像っていうか、なんか、水中みたいな?」

「いや、別にあれは水中じゃないっすよ。めちゃくちゃ冷たいだけで」

「いや、というかさ、別に水中かどうかはどうでもいいわけ。だってわからんでしょ? どっちにしてもさ」

 〇〇はだんだんテンションが高くなってきていた。

「だってこっちとしては、それ以上に衝撃が大きいわけよ。だって全国ネットでさ、十数年来の友達がさ、え、死んでね??みたいな。なんか、よくわからん、水中にみたいな所にいるし」

「なんか内蔵みたいなん出てますしね」

「そうそう。ね、みた? なんかこれ、うわっ、きもっ、みたいな。てかさあ、あれは何? どういう状況だったわけ?」

「いやだから別に、あれはなんでもないんですよ」

「なんでもないことないだろ、映像になってんだから、ああいう事態は生じてるわけだろ?」

「いや、だから生じてないですよ」

「は? 何で?」

「だからあれは夢だからですよ」

 と、僕がそう言った瞬間、〇〇は玄関先から消えていた。僕は金色の夕日が照らす玄関に立っていた。

 という夢を見て僕は飛び起きた。