野球についての話。野球についてよく理解していないのに、野球みたいな遊びをしていた。その遊びについて、中学生の時の同級生の杉山ともきくんに話す。すると彼は野球をもっと知っているから、怪訝な顔をする。「DJって意味わかってる?」と彼は尋ねる。僕はちょっと慌てて、「僕たちは球を打って、1塁から2塁に向かって走ることだけをDJと呼んでいるんだ」と説明した。

 

酔った状態で立ち上がると、視界がふらふらして、何年か前に似たような店で男に殴りかかられた時のことを思い出すようだったけれど、別にそれは嫌な感覚ではなかった。むしろ殴ったり殴られたりすると、気持ちがすかっとするのではないかな、と思ったりしていた。座って、おちょこから冷酒を飲んだ。Qが隣にいて何かを話していた。僕も何かを話して、笑った。厨房では学生らしいバイトの人が焼き鳥を焼いたり、何人かでテキパキと業務をこなしていた。僕は海で嵐がきて水没した船が出てくるヘミングウェイの小説について話すか、あるいは思い出すかしていて、その後遠くに住んでいる友人から思い出したように電話がかかってきた。僕はそれをすぐには取らずに、着信が終わるまで待った。そして少しして、その不在着信の記録に電話をかけた。その時相手は出たのだけれど、何も言わず、電話を耳に当ててもいないようで、飲み屋らしいところでさわいでいる人たちの声だけがざわざわ聞こえていた。

 僕はQの顔をみた。

 誰かな、と言うように彼女は表情を動かした。

 誰だろう?と僕は言った。

 誰なのかはわかっていたのだけれど、そう言った。

 「赤い提灯みたいなものが」という声が電話の向こうから聞こえた。それは女の声で、電話をかけてきた彼の声ではなかった。

 

 帰り道を歩いていると、街がすごく眩しくみえて、そしてその後雲がパッとかぶさるように、ふいに暗い気持ちになって歩きつづけた。