2017.5.30

布団にいるとき、目の裏でパーっと、赤い網みたいなものとか、色んな形や色がみえること

玄関を出たら陽が眩しくて、妙に懐かしいこと

随分遠くにきたな、と思うこと

風景の裏に灰色の風景が浮かぶこと

彼がバーでビールのタンブラーを持っていて、こっちを向いて笑っていること(それが、「意味がない」となぜか思う)

「あなたにとって私は誰でもない」

思考より言葉が先に出て、思考がそれについてとぼとぼ歩く、みたいなこと

赤ちゃんが背中に紐をつけて、車輪のついたプラスチックの湯船を引いて運んでいる。それは自分だ

 

たとえば何度も思い出す

子供の頃、夜のホテルでふと目が覚めて見た

ゲレンデをならす車の、オレンジ色の光

 

また、トンネルのオレンジ色の照明を通るのが好きで

車の窓に途切れてぶつぎれになった光の中で

ふざけていたこと

 

キャンプ場の細い道。誰か人が立っていそうでいない道

 

そうした記憶があることの意味

それが何かのメッセージのように、繰り返し思い出されること

ある言葉が繰り返し反復されて、そのつど意味を変えていくように

ある、それ自体には意味のない風景が繰り返されて、

また別の、意味ではない意味をつたえる

 

それは一人の人が、その人ではなく人であることの意味で、

時に極めて残酷な現実がそれを打ち砕いて

悲しく宙にただよう

 

最もあやふやなものこそが自分で、

ここにいるのは影のようなもの

それで拳を握ったりひらいたりして

感心したり、喜んだり、怒ったり、同情したり、憂鬱になったりしている

それもまた真実なのだけど

まるですべてが演技であることを忘れた演技のようでもある

 

死んでいることを忘れた死んでいる人のようでもあり

生きていることを忘れた生きている人のようでもある

ベランダで陽の光の下の植物が、はっとわれに返るようなこと

きっと植物も何かを思い出すだろうこと