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ハイになったりローになったり

2016.7.20

その中古車屋の敷地を囲ってのぼりが出ていた。のぼりは黄色やピンク色でみんなぱたぱたはためいていた。フロントガラスには値段の紙のプレートが出ていた。曇り空の下でも風が強いと、のぼりはぱたぱたはためいていた。赤い車も黒い車もくすんだ空の下ではくすんだ色をしていた。やがて細かい雨が風にまざってくると、旗もぷつぷつと濡れた。ある晴れた日に学校帰りの少年がポケットから小銭を出して車と車の間に挟まれている自販機でジュースを買った。ジュースを帰りに買うようなことはもちろん禁止されていた。もう一人いっしょにいた少年はそもそも自分のお金で勝手にジュースを買うと言ったことさえしたことがなかった。「今こいつのシール集めてんの」と言ってシールだけとって筆箱に貼った残りの缶を、枝分かれした道から一人になって歩いていくとき彼はじっと見ていた。キリンだとか、シマウマだとか、そんな動物のデフォルメされたのが、笑っていたり、無表情でこっちを見ていた。家に持って帰っては怒られるとわかっていたから、道と道を隔てるブロック塀の上にその缶をおいた。缶はぴったり正面がこっちに向いていた。一番表の面には尾ひれを脚にして立つピンク色のクジラがいた。

 何年か経ったあと、ピンク色のクジラが立っているその缶ジュースを、連れられてきた旅行先の自販機で彼は見つけた。あまり流行ったりしたキャラクターではないけれどそのときにもまだ売っていた。彼は一人で、植物園内のその空間はとても空いていた。真夏のテント室の中は温度調整がされていたとはいえ、高いところから眩しく陽ざしが落ちてきて蒸した。彼は木陰の方へ歩いていってベンチに座り、背中のうしろへ両手を広げて頭上を見上げ、眩しい陽ざしに目を細めていた。