小島信夫の感想

わかりにくく立体的な文章は、現実の道に喩えられる。ある道を行くときに、その道中に存在する風物は、現実世界に、(それが意味するところは曖昧だが)全的にそこにある。しかし、そこを実際に歩いていく時には、その道は特定の時間に、特定の視座から、特…

雪女

いや、うーん。な、る、ほどな。まあそんなふうに、全体的にしか論じられない人はいますからね…、でも、いや、そうか? 別の角度から考えたら、むしろ分かるかもしれない。それってつまり、例えばこういう山があるとして、そこに何人登って、何人降りてくる…

天井を眺めながら

私ね、昔みた映画ですごく印象に残っているのがあって。でも、子供の頃にみたのやつだから、あまり覚えてなくて、それに、旅行先のホテルでみたんだと思うんだけど、だから、タイトルとかもわからないのね。覚えてる記憶も断片的で、なんか夕日に沈んでく街…

司会

すごく馬鹿馬鹿しい話なんですよ。私は今までそうやって考えたことはない、いや、常に考えているんです。こうやって縮こまって暗い部屋の中でじーっと自分の考えをいじくっているとですね、あるときピコーンと脳裏に閃いてくることがあるんです。それが一体…

朝走っている時に感じる、太陽の印象。橋の上まできて、その下を流れている川が気になって立ち止まる。何ということはない川だ。特段の謂れや、際立った景観があるわけではない、近所の川。その川の、手前の方は透明で、中を魚が泳ぎ、石の転がっているのが…

翻訳

精神で見つめたvisionに導かれた言葉によって語る。そこでは一度辿られた思考でさえ、また新しい道筋で産出され、生まれ変わる。用意した言葉で語るべきでない。それは生起するvisionを歪めるノイズにしかならない。心の裏側で思考する訓練を積むことだ。自…

小説の思考

詩の言葉と小説の言葉はどのように違うか。一言、真実の言葉を言い表しうるのが詩の言葉とすると、小説はどの一文でもそれ単体で何かを言い当てるとは言い難い。何を語ってもどこか語られるべきことの根本とは遠く、かと言って全く外れているわけではない。…

陽のあたる部屋の中で その子がこっちを振り向くとき この世に何か足りないものなど あるだろうか?

光の中のベンチ

ああ、そのね 音楽を聴いたよ でも、あれこれと一杯 ある中で、どれか分からない どうも、沢山ありすぎるようだ 「夢の中で寝返りを打つ」 うん そうだね、でも電気ケトルが 立てている音を取り込むような音楽だから いいと思う、それが 俺の音楽評だな まる…

幼年期のように

炎が燃えている 長いこと時間が経つ テーブルにコーヒーを置く 空間が青ざめてみえる 天使がそこにいる 眩しい光を放つ天使 僕はそれを見ていない 僕はそれを見ている 窓から見える、クレーン車が動く 曇り空の下で、強風が吹いているのに この部屋は暖かく…

微弱なもの

とにかく何かの味がする。何のどんな味かと言われると答えられないが、確かに味がしているのだ。どうも自分の舌で味わっているようではない。口には何も入っていないのだから。おいしいとか、おいしくないとかも、ない。何というか、ただ質感があるのだ。 こ…

黄色い花

これは×××のお墓 (手を合わせる)

遠い街に行き そこでも人の一生のあることに驚く

海底に深く潜る 夢の中に深く そしてまた地上に出る 光の中の街へいく

何かをカツンと打つ音が 遠く空からこだまする あれはどこから聞こえる音か? 考える間に眠ってしまう

リンゴと梨

この広い宇宙では すべてのことが可能なのだ だからあなたがここにいることも また消えさっていることも可能だ あなたがリンゴとしてここにいることも 梨としていることも可能だ 私は台所に立って 慣れた手つきで色々なものを切る そしてそれを皿に盛りつけて…

パズルのピース

このとてもとても小さなパズルピースが そのとてもとても小さな掌から落ちて うちの絨毯は広すぎるからもう 見つけられない だから 何かをなくしたということだけ いつまでも覚えているのだろう

幻はあらわれる 答えをついに聞く 電話がかかってくる 驚いて目が覚める テーブルにコーヒーがある

夜のテーブル

ただ自然に創作意欲がわいてね 誰に読ませるわけでもなく、詩を書いてみたいと思ったんだ 実はこれまで、純粋にそんな気持ちになったことは 少なかったように思う (緑の多く茂った道を歩いていく) 何かに追い立てられるようにして、 この目に映るべきもの…

バッティングセンター

バッティングセンターの夜は明るい 道は静かで時間は過ぎる ただ夢をみて 夢の中を泳ぐ

眠り

例えば雨つぶがびっしりと窓に張りついたとして、 ほとんどは何ら意味のない、単なる雨つぶの模様であるが、 ある一部だけは、何かを思い出させる形であるとか、 一粒の雨つぶは、健気に必死に走っている何かにみえるとか。 例えば一つの雲も、 徐々に何らか…

真っ青な朝 真っ赤な朝 真っ黄色な朝 真っ黒な夜中 河原を歩いていく日々

涼しさ

まるで棚の中の銀紙に包まれた チョコレートのように 助手席に乗って走っていく 昼下りの道のように BS放送でみる砂漠のラクダのように 言葉を尽くしても説明できないと 何も口にする前に思う ここは神さまのおもちゃ箱で やがて我が子が遊ぶところ 通り雨が…

vases

心がない 無邪気 夏の理想 力をぬいた 幸せ 山 くだらない 深夜 愛すること 死 冷たくなっている どうした 道具 茨 冠 理解されなくてもいい 自分を理解することもない 何もかも分かっている すごいな こういう現象 存在するという

子供が産まれた

吐く赤ちゃん 吠える犬 月 心臓の音 夏の空気 宇宙 虫 精神 青

道端に咲くたんぽぽの花

サンタ

「いいか、よく考えてみて。サンタだって、何もないところからプレゼントを生み出すのは無理だろう。サンタはプレゼントを買ってるんじゃないか? でもそうだとしたら、どうやってお金を払っているのか? 世の中全部の子供のためにプレゼント代を払っていた…

ずれた比喩

比喩は少しずつずれている。 厳密な意味では、正しい比喩というものは存在しない。 比喩は常にずれている。ずれ続けている。 たとえばスパイラル状にずれ続ける。それもまた何かの比喩である。 が、それもまたそれそのものからずれている。不真面目な物の見…

I like the glass.

グラスよ。 僕はこのグラスが好きだ。 グラスに反射する光が、 まるで自分自身のように 感じるように。 光は割れている。 光はちらばる。 光は割れてちらばって、 床や道に落ちる。 そんなふうにして、 光のように僕は落ちている。 転げまわって床に寝ている…

絶滅

僕は恐竜になり、 他のすべての恐竜とともに、 地球上から絶滅するという、 夢をみた。