幽霊の会話

おれさあ、昨日お前の心の中の家に行ってきたんだって。家なのに柱しかなかったじゃん。お前もおらんし。
何があったん、他に?
畳となんか古いっぽいテレビ。
勝手に入んなよ。
虫とかいたんじゃね?
おらんわ、虫なんか。
虫はいなかったけど鈴虫の音はめっちゃ聞こえてました。めっちゃうるさかったです。
お前そこで何しとったの?
暇だったんでずっとけん玉やってました。
きみまじでシュールじゃん、人の心の家の中でけん玉練習してるとか。
でも待ってください、こいつけん玉まじプロ級なんっすよ。
そうなんです。な。めっちゃはまってるんすよ。
昨日頭ん中がめちゃくちゃうるさいと思ってたらそれか。
わかんの?
わかんないですけど何か、頭痛かったです。チクチクする感じっていうか。
でもお前布団で堂々と寝とったがん。
ちょ、こいつ。聞いてください、先生。僕マジで昨日変な夢みたんすよ。
あ、はい先生。僕知ってます!お前それあれだろ、カラスが戦場みたいなとこで夕日に向かってめっちゃ飛んでるやつだろ。
こいつまじありえんわ。
俺見とったもん。こうやって銃構えてバンバン撃っとったがん。
もうほんとにつらいんすよ。カラス死んでめっちゃ落ちてくるし段々腐ってくるし。それにその夢全然終わんないんっすよ。長っ!て。
俺も飽きて途中で帰ったからね。
それでどうやって目が覚めたの、そしたら?
わかりません。気がついたら今日になってました。
お前それまだ夢の中の可能性あるんじゃね?
えっ?
いや、これ夢の中だったら訳わからなすぎるわ。
(笑)

人間の顔が砂になって、しゃりしゃりと雨の降るような音を立てながら落ちていくのを見るのは、子どもに還ったように懐かしい。

何かに夢中になっていたのか、ふと目を上げたときにそこへ停車していることに気づく駅。自分自身の意識と空間に変な仕方で焦点が当たるのに気づく夜。そうだ、この舞台はまだ続きなんだ、と思うような。その先の筋書きまで知っているはずなのだけど、何かに邪魔されるように思い出せない。舞台を鳴らす靴の音が広い空間にこだまする。

その家は精神の中に建てられている。その柱は地面ではなくて宙に支えられている。心の空間は現実の空が気体に満たされているように柔らかいものに包まれている。風が吹けばその家は揺れる。

人はそれを見つけるかもしれない

春の雨
風の音
何ということはない会話
木々のざわめき
薄い日の明かり
走っていく

だからそれに何という意味があるわけでもない。
ただ生きているというか、それだけだよ。
そう、明日には帰ってくる。
明日の今頃はあっちにいると思う。
別に何ということもないんだけど。
夕暮れはきれいだな。
風は涼しい。

網戸を開けるとからから音が鳴る。
前にそこを通った猫がいたけど今はいない。
今は暇だけど夕方には出かけなきゃいけない。
そう考えるとずっと暇な日もないね。

夜まで寝たことってない。

だから何だというけど。

人はそれを見つけるかもしれない。

(一人でいるときに自分で思うこと)

もし僕がタイヤだったら

もし僕がタイヤだったら、お父さんとお母さんを乗せてどこまでも転がっていきます。

ころころころころと転がって、この世の果てまでも転がっていきます。

もし僕がタイヤだったら、僕には目がありません。何も見ることができず、聞くこともできず、生まれたという記憶以外は何もないまま、ころころころころと転がっていきます。

弟たちも乗せてあげたいと思います。でも、弟たちもタイヤかもしれません。もし、弟たちもタイヤならば、弟たちも転がっていきます。ころころころころと、みんなで並んでどこまでも転がっていきます。

もし僕がタイヤだったらいいなと思います。朝目が覚めたらタイヤだったらと思うのですが、タイヤには朝がありません。

聖なる世界

だるい。この感じ。十分寝ているはずだけど、だるい。旅先だとよりだるい。みずみずしい気持ちでいられる肉体でいたいな。そう思う。健康にはこれまで以上に気をつけよう。もっと走ろう。もっと長く走ろう。食事もそうだろう。彼女はヘルシーな食事が好きだから俺もそれにあやかるべきだ。

茶店であんみつを食べる。僕は食べない。ここのコーヒーは濃い。前に飲んだあのコーヒーと似てると言う。ものすごくきついコーヒー。サルタヒコだっけ。それは違うかな。とにかくあなたがぎんぎんに効いちゃってあとで気持ち悪くなってさ。ね。あったよそういうこと。

目を開けるとくらくらする、と言うのとも違う。時間がわからなくなる。いや、時間がわからなくなるわけがない。時計はある。天井は何というか、重厚なつくりで、模様は呪術的だ。そうじゃない。世の中の模様について大して知らないから、呪術的にみえるんだろう。それにしても、模様というのは変だ。誰がこういうのを考えるんだろうね。誰が考えたというわけでもないのも多いだろう。

夢の中にいるみたいだけど、夢にいるわけじゃないってことはわかっている。人間は主観の檻の中に閉じ込められている。人間は主観の檻の中に閉じ込められている。だからそんなことを考えたって他人にやさしくできるわけじゃないんだよね。変に内省的になったりするのは自分のことしか考えられなくなっているときでしょう。それは思想じゃなくて幼児退行というかさ……。

俺はちょっと顔を洗いたいな。ちょっと顔を洗いたい。でもやっぱりどっちにしても少し歩き疲れてしまったな。つまらない思いをさせてごめん。そうやって謝ることもごめん。でも僕は少しでも人としてよくあれるようになりたいと思っています。