何か、木の板のようなものに捕まって、

僕は海の波に飲まれている

ここはどれほど沖なのか

こうしていることは危険なのか、そうでないのかわからない

板の浮力で浮き上がり、空と海をみる

そしてまた真っ暗なものの中に沈んでいく



太陽の光が斜めに差し込む部屋で

黒いかたまりと出会う

そのかたまりは僕に

小さい頃に聞いた何かのおとぎ話を思い出させる

何の話というのじゃなく、ただ何となく薄暗くて

物悲しくて、懐かしい

そこに向けて重力が働くように

黒いかたまりはそこにいて

僕はここでそれに出会うべきではないと思うのだけど

それでもどこか

嬉しいと感じている



身体がばらばらになる

爆笑

静かにしろ

誰かが走っていく

 電話がかかってきたときから、嫌だった。電話がかかってくると大抵嫌な予感がした。しかし今回のことでは驚いた。なぜ◯◯がくるのか?

「上がってきてください」

 と僕は言ったが、正直別にきてほしくなかった。一人でいたい気分だった。

 それに、上がってきてもらうなどということは無理だ。僕は階段を降りて行った。玄関のドアのすりガラスの向こうに、〇〇のシルエットが立っていた。

「どうしたんですか、こんなとこまで」

 僕はそう言って笑った。

「いや、なんかさあ、変だと思ってさ」

 僕は〇〇の目の焦点が少し変だと思った。夕方で辺りが金色だった。

「何がですか?」

「いや、朝起きたときにさ」

 言いながら〇〇は何かを見つけたように足元を見た。僕もそこを見たが何もなかった。蟻も這っていない。ただのタイルだった。

「めざまし時計が鳴って」

「うん」

「すごいうるさかったわけ」

「はい」

「いつもこんなうるさいわけないのになーって」

「で、やっぱちょっと変なんじゃねーかと思ったら、テレビが映ってて」

「テレビだよ? うちって、別に朝自動でついたりしないからさ」

「いやこれ夢かな?と思ったんだけど、ジャンプしたりさ、してみたんだけど、あ、これ夢じゃねーやって」

「気づいたんだよね。で、テレビみたら大写しで」

「君が映ってたからさ。あれ、これダメじゃねって。これダメなやつじゃね?って思ったわけよ。死んでんじゃんって。うわーこれはないわーというかなんというか、にわかには?信じがたかったわけよ」

「で、確かめなきゃと思って、急いできたんだけど、なんか元気そうだね」

「うん、はい」

「なんともないわけ?」

「うん、はい。別に」

 僕は証明するようにその場で軽く跳ねた。

「じゃあなんなん、あれ」

「あれってなんです?」

「えっ、知らんの?」

「ああ、いや、知ってます」

「なんなの、どうしたの?」

「あの凍ってるやつですよね」

「凍ってるっていうか、うーん、なんだ、あれ? 青い感じの映像っていうか、なんか、水中みたいな?」

「いや、別にあれは水中じゃないっすよ。めちゃくちゃ冷たいだけで」

「いや、というかさ、別に水中かどうかはどうでもいいわけ。だってわからんでしょ? どっちにしてもさ」

 〇〇はだんだんテンションが高くなってきていた。

「だってこっちとしては、それ以上に衝撃が大きいわけよ。だって全国ネットでさ、十数年来の友達がさ、え、死んでね??みたいな。なんか、よくわからん、水中にみたいな所にいるし」

「なんか内蔵みたいなん出てますしね」

「そうそう。ね、みた? なんかこれ、うわっ、きもっ、みたいな。てかさあ、あれは何? どういう状況だったわけ?」

「いやだから別に、あれはなんでもないんですよ」

「なんでもないことないだろ、映像になってんだから、ああいう事態は生じてるわけだろ?」

「いや、だから生じてないですよ」

「は? 何で?」

「だからあれは夢だからですよ」

 と、僕がそう言った瞬間、〇〇は玄関先から消えていた。僕は金色の夕日が照らす玄関に立っていた。

 という夢を見て僕は飛び起きた。

激流 トースト 乾いた空 嬉しい

マスト ピーマン グラタン 濡れた土

嫌だな 首 血 詩人 南 風船 山 歌 縞 

深夜の交差点 コンビニ 夢か!

なんかずっと歩いている 北 地図 ざらざらする

子供の頃行ったファミレスみたいな感じというか

家に帰る 布団で寝る また明日がくる 水車のある公園がある

子供が車の窓から身を乗り出す 廃墟になって蔦が這っている

手の先でちまちまやっている 寿司 昼間 魚

ギターを弾いている 深夜 彼のアパートに行って

変な奥さんをみる アメリカンなポスター ラジオ 幻覚 幽霊が先を歩いていく 街灯 車通りが多くて 驚く

静かにしたい 積み木で遊びたい 泥人形が並んで立っている クッパ ピカチュウ プラスチックの指輪 ガスの臭い 嫌だな そうだな 晴れている 眩しくて 好きだな

マンホール 蠍 サッカーをやってる夕方 ん? 雨 洗濯物が濡れるな 妙に重苦しい… 電話を待ってる 電話を掛けてる メールを打つ 事務所の表の駐車場一杯に夕陽が射す

タクシー来る いつまでも長い道だな それは映画でみた また見たい ロボットだ いい加減 うん 嘘つきだ 泣くなよ 舌が痺れる ような感じっていうか

本当にこれは好きだな 頭で 色彩が がーんと 降りてきてね

シャーマンなんだよ 酒 病院 ふらふら歩く ピラフ 餃子 いも虫 赤信号を渡る 船を見送る 雪が降る

シャーペンをかちかちやる 騙されるな いい匂い 遠くまで運ばれていく 綿毛みたいだなそれは

でもこれはゴミみたいな作品だよ 別に君がゴミと言ってるわけじゃない、誤解しないで

車から降りてくる 男はストライプのスーツを着ている

夢に近いところで数えられた羊

小学生の頃 平日の夜にアニメをみてて やたら切迫感のある 不安を感じたことって あるよね

眼がむちゃくちゃになる

犬がむちゃくちゃに吠える

夜がめちゃくちゃになる

何かがめちゃくちゃ赤い 青い

海みたい

浮かんでるみたい

しわしわみたい

遊んでるみたい

逆立ちの仕方 的確な報告をする ギロチン刑 太宰の話 太鼓を叩いてるやつ 夜の空を見上げる 執念深く追いかけてくるやつ そういう女 そういう男 冷蔵庫 ドライアイス どら焼き 金 眼鏡 ハンバーガー 宇宙

しゅんしゅん言って回る 何かがしゅんしゅん言って回っている その銀色みたいなやつ それが糸みたいなものを巻く 嫌だなーと思いながら見てしまう、みたいな デタラメをキーボードで打ち込むみたいな 水に浸かってぐちゃぐちゃになったノートみたいな 噂好きの人たちみたいな

ああ、そう、だからですね、何度も言ってるように、これは違った電話番号です そう 違うんです 疲れた もうね 歩くの 疲れた 

と大して歩いていないのに彼女が言うのは

別のことに疲れてるから で それがなんか僕にはすごく

いい

でかい音で映画を聞く 昼休みに遠くまで歩く 歌を歌ってみる

やっぱあの人の奥さん 変だったな 何とも 説明がつかんけど

なんか どこかで見たことあるような 変さっていうか

昔 映画でみたのか なんか 物の本で読んだのか とにかく出自はわからんけど そういうのでいたキャラっていうか

ヒッチコックに出てくるような感じか? 知らんが もしかしたら 自分でみた夢かもしれんが でも そんな夢みた記憶もないが

なんか変で この人 大丈夫か? まあ 失礼だから深くは踏み入らないけど あの夜 なんか 生きた心地がしなかったな

水族館 サイエンスクラブ 蛍光色のゼッケン アベマリア 聖なる光 キラカード おべんちゃら

今日はそろそろ寝よう

雨が降っている。彼は喫茶店にいる。長い時間が経ったな、と思う。

そこは小さな店で、どっしりした椅子に、膝の高さのテーブルがある。席はショーウィンドウに面し、通りを見渡せるが、雨で道は煙り、雲のせいで辺りは薄暗く、雨粒が窓を全体に覆い隠して、そして彼自身が決して景色へ意識を凝らしたりはしないから、何も判然とは目に映らない。ただ、点滅する光の印象、すばやく動いていくモザイクのような人影や車の影、薄ぼんやりとした光の感覚が、ぼんやりと流れていく。

彼の近くには、そんな窓や、その上の時計、向かい合った壁のカレンダー、飾りの地図、観葉植物などがあったが、いずれも、見ているようで見てはいない。時間がただ経つという感覚があり、それは単に眠りが足りなくて、とても意識がぼんやりとする、それだけのことかもしれない。雨にぐしょ濡れになって歩いてきたみたいに、体の芯から疲れ切っているのを感じる。

違う。あなたはそのメッセージを読み違えている、と二人は言う。それはすごく明確なメッセージで、あなたにほとんどすぐにでも、やってくるように伝えている。確かにはっきりとそのようには書かれていないし、読み過ごすのもわからなくはない。でも、その意味があなたにわからないのなら、あなたにその程度の理解しか、気持ちしかないのなら、もういっそすべてをふいにして、何もないことにしてしまった方がいいほど、それははっきりした意志なのだ。

 

 

僕は結局、その文に対する、そうした意見に対して、半信半疑でしかない。僕自身は判断できない。その水平線を映したパンフレットを手に持ち、書かれた文字を何度も、色んな角度から眺めても、そんなに決定的な意志がそこに反映されているとは、僕には読めない。すべては曖昧だった。二人が言うことも、彼らの希望が大いに含まれていて、事実上の意志は、やはり蓋を開ければ全く異なったものかもしれない。いや、きっとそうなのだろうとさえ思う。しかし、僕は判断できない。自分がそれを判断する力に自信がない。だから、言われた通りにしてみるしかないことが、自分には分かっている。そしてそれで何の不足もなかった。