「今日はとても空が晴れてる」
「雨降ってきた。じめじめする」
「ごめん、ついさっきまでうとうとしてたんだ」
「それにしてもあっつい日だな」
「ホームはこっちでいいのかな。あと何分後に次の列車はくるのかな」
[柱の時刻表を覗き込んで]
「43分と書いてあります。20分そこそこです。ああ、こっちは休日だった。38分です」
「お前おもしろいな」
「今のちょっともう一回やってみて」
「もうここのとこに草がなくなったので無理です」
「いやー、こいつはうまい」
「今度おいしいそばの店へ案内するよ」
「昨日変な夢をみたんだ」
「どんな夢です?」
「いや、思い出せない……」
「おい、もう15分も過ぎてるぞ」
「いや、ちょっと忘れものを取りに戻っていただけです」
「だけってなんだ。だけって言うのは誰なんだ」
「口が滑ったんです。だけってことじゃなくて、そういう意味なんです」
「そうだよ。すぐ隣りの駅であったんだよ。犯人捕まってないの」
「見たの?」
「見たわけないじゃん。わざわざ駅で降りて見に行くとでも思うんですか。そんな野次馬じゃありません」
「それって一般論で言ってるんですか。それとも僕のことを見て言ってるんですか」
「あんた難しいこと聞くね」
「難しいですか」
「そりゃ一般論だよ。あんたのことほとんど何も知らないもの」
「心外だな。もう3ヶ月もいっしょにいるじゃないですか」
「家が燃えている……」
「正直ね、けっこうきついよね」
「話聞こうか?」
「いや……、別にいい」
「帰り8時過ぎるよ。遠いな」
「のんびりしすぎましたね」
「あいつめっちゃショック受けてたぞ」
「もう寝た?」
「うとうとしてました。また寝る」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「8番線ホームから沖津根津行きの発車です」
「まあ近況報告はこんなところ」
「よくそんな派手な車買うもんだね」
「いや、そんなにもらっても俺も食べきれないから」
「だから言ったろ。中華料理屋の中に中華料理屋だって。その中のがうまいんだって」
「すいません、ごちそうさまです」
「またお話ししましょう。ではさようなら」